中標津町の広大な原野を進み、こんな山奥に、と不安になったところで夕闇に灯る宿の灯が見えてきます。
今日の宿は、養老牛温泉で唯一の宿となった「湯宿だいいち」です。
実はこの養老牛温泉は、私の大好きな映画「男はつらいよ」(シリーズ33作、夜霧にむせぶ寅次郎)のロケ地にもなった場所。
それだけでなく、映画「釣りバカ日誌20ファイナル」の舞台ともなった場所なのです。
どちらの作品も監督した山田洋二氏のお気に入りの地だったようです。
確かに、標津川のせせらぎと山奥の冷涼とした雰囲気は秘湯そのもの。
いまでも、ひっそりとロケ地だったことを示す碑が建っていました。
旅立つ朝、「湯宿だいいち」の大女将と話す機会がありました。
コロナ禍で環境が大きく変わったこと、冬には野鳥を観察しに海外からも客が来ること、女優の倍賞千恵子さんの別荘が中標津にあり時折旅館にも見えられることなど。
中でも話に花が咲いたのは、外国人労働者と日本語学校のことでした。
この旅館でも人手不足のため多くの外国人が働いていました。
大女将いわく、「それぞれにお国柄があって、それに応じた指導が必要で、それが大変」なのだそうです。
それでも、カタコトの日本語ながら一生懸命接してくれる若い外国人のスタッフたちはさわやかでした。
そんな話から大女将の息子さん(現在の旅館の社長)が中標津町にある民間の日本語学校の理事を勤めていることがわかりました。
「紋別でも公立の日本語学校をつくる動きもあるんです」と話すと関心を寄せてくれました。
人口が減る中で、労働力を確保するためには外国人の力がどうしても必要になってきています。
紋別市にも、すでに800人を超える外国人が働き暮らしています。まさに、異文化共生の新しいステージが始まっています。
「またのお越しを」「ぜひ」と、最後まで見送ってくれた大女将を背に、車を走らせました。
(「オホーツク民報」11月17日付 『野村淳一のかけある記』より)