かねてから一度は見てみたいと思っていた「無言館」の絵画展が、釧路市の道立釧路芸術館で開かれていたのです。
霧の釧路へ、妻と車を走らせました。
「無言館」とは、長野県上田市にある美術館で、正式には「戦没画学生慰霊美術館・無言館」といい、今から70年前、戦場に送られ、志半ばで世を去った数多くの画学生たちの遺作・遺品を展示している美術館です。
その「無言館」は今年、開館70周年を迎えるのを記念して、その所蔵作品の中から約130点の遺作が、今回釧路芸術館で展示されたのです。
なにより驚き、胸に詰まるのは、作品の隣に添えられたそれぞれの説明・コメントです。
その作者についての経歴やエピソードがつづられています。その内容が、どれもすべて胸に迫ります。
「あと5分でいい。この絵を描かせてください」ー自分の戦地に送る会が始まってもなお、絵筆を置こうとしなった日高安典さん。絵のモデルだった恋人に「必ず生きて帰って、この絵を描くから」と言い残して戦地へ。フィリピンで戦死。享年27歳。
妻をモデルに描いた肖像画。美術教師だった佐久間修さんは、生徒との勤労動員のさなか、爆撃を受け死亡。享年29歳。妻はこの絵を部屋に飾り「戦後ずっと修さんとの絵に見守られて生きれ来ました」と語ったという。
一つ一つの作品に添えられたエピソードに、若き画学生たちの無念さと戦争の非情さを強く感じ、今思い出しても胸が詰まります。
彼らが描いた作品は、家族や妻、恋人、そして故郷が多いのに気づきます。
死が迫る中だからこそ、彼らが描きたかったのは、愛する人、愛する故郷だったのかもしれません。
確かに、作品そのものの芸術的価値は未熟かもしれません。
でも、人の心に響く作品、胸に迫る作品という価値でいえば、これ以上の作品はないのかもしれません。
まさに、誰をも「無言」にさせてしまう絵画展でした。